──シングル「ハイライト・ハイライト」は軽やかな序盤からどんどんパワフルに躍動していく曲だと思いました。どういう風にイメージを膨らませていったんですか？

北澤「アニメ『くノ一ツバキの胸の内』のオープニングテーマのお話があったので、まずアニメの原作を読むところからスタートしました。くノ一の女の子たちには男性と接触禁止っていう鉄の掟があって人里離れたくノ一の里で暮らしていて、女の子3人のチーム（班）で行動するっていう設定が、女子高出身で女3人でバンドを組んでいる自分と重なるところが多いなって思ったんです。アニメ自体は最初スタッフの方から、『日常を綴ったほのぼのした作品です』って言われてたので、かわいらしい部分を重視して、あまり切り込まないような曲にした方が良いかなって思ったんですけど、自分と重なるところが多いのでせっかくだったら自分が書きたいように書こうかなと思いました」

──歌詞には未来を自ら切り拓いていこうという意志が溢れています。

北澤「私はSNSで、ファンの方から送られてきたメッセージを読んだり、みんながどんなことで悩んでいるのかをよくチェックしてるんです。

その中で、『女の子はこうあるべき』とか女性っていう属性の規範みたいなものに収められることで悩んでいる人が多いなと感じて。最近、骨格診断やパーソナル カラーが流行っていて、それ自体は全然良いんですけど、『骨格がストレートだったら首が詰まってる服は着ちゃ駄目みたいな雰囲気が辛いよ』っていうメッセージをもらったりして。私自身も高校生の時、そういう悩みを抱えていたなって思ったんです。でも私の場合は、『女の子っぽくないね』って言われることに若干喜びを感じていて。『女の子なのに渋い音楽聴くんだね』とか。もし私が男の子だったら『そういう曲聴くんだね。趣味良いね』って言われるかもしれないのに、なんで『女の子なのに』が付いてたんだろうって。『しかもそれで私はなんで喜んでたんだろう』ってここ最近すごく考えてたんです。今世界的にも、『枠組みに捉われずにそれぞれの構成を尊重しましょう』っていう流れが強くなってる。だからこそ、10代の子たちは私が高校生の時代よりも、『本当の自分はこんなんじゃないのに』っていうことを多く考える機会があるんじゃないかなって。もちろん年齢を重ねてもそういうことで悩んでいる人はいます。自分が大人って言われる年齢になって、一歩引いて高校時代のことを思い返せるようになった時に、『自分の好きな自分を追求していいんだ』って思えるような曲が書けたらいいなっていうのはずっと前から思ってたんです。ただ夢に向かって頑張るっていうよりは、自分のままで夢を掴みに行っていいんだっていう曲。それで、アニメの話を聞いてタイミング的にちょうど良いんじゃないかと思ってそういう歌詞を書きました。女性っていう属性における規範をテーマに書きましたけど、私もひとりの女性である前にひとりの人間ですし、聴き手は選びたくないので、性別関係なくそれぞれの自分に重ねてくれたら嬉しいなって思います」

──主語が「私たち」と「私」の両方出てくるのは、悩んでいる子たちに向けてっていう視点と自分の意志が共存しているということですかね。

北澤「そうですね。聴いてくれた人に自分の歌としても思ってもらえたらいいし、でも隣を見たら同じようなことで悩んでいる人がいたりするから、ふとした時に手を繋いでもらえたら『一人じゃないんだ』っていうことを感じてもらえていいんじゃないかと思いました」

──二番に出てくる「オーダーメイドしてく世界」というフレーズが、カジュアルなんだけど強い意志が感じられて絶妙だと思いました。

北澤「一番に『オーバーヒートしてく思い』っていう歌詞があるので、そことリンクする歌詞にしたいなとまず思ったんです。『魅力も未来もこの手で選べたのなら』って歌詞もあるんですけど、誰かから『こうあるべき』って言われてそれに従って、褒められて嬉しかったり幸せになれることもあるけど、そういうことを続けていく中で人生を振り返った時に『幸せだった』って思えるのかな？って最近すごく思ったんです。そうじゃなくて、自分の意志で一つ一つ選択できる自由があることが人生の幸せなんじゃないかなって。自分自身の世界は自分自身で作っていく。その中で人との繋がりを持ったり、誰かを思いやったりしていけるのが一番豊かな人生なんじゃないかなと思って、この歌詞を書きました。カジュアルさっていうのは結構意識しましたね。この曲に込められている『社会の規範に捉われたくない』っていう想いって、人によってはポリコレっぽく感じられて『苦手』って思っちゃうこともあると思うんです。でもやっぱり私は聴き手は選びたくないので、なるべくみんなの身近にある言葉や環境を照らせる言葉を使いたい。そこからさらに踏み込んで考えてくれる人がいるのは自由だし。逆に、ただ『今日が明るく生きられた』っていう人がいても私はすごく幸せだし。だから、スタート地点はちょっと大きな規模の話でしたけど、あくまで軽快でカジュアルな曲ではあってほしい。歌詞は聞き流してもらってもいいし、例えば悩んでいる時に聴いて言葉がどんどん入っていっても嬉しい。いろんな聴き方をしてもらえる曲になったらいいなと思います」

──編曲はthe peggiesと江口亮さんの共同クレジットになっています。江口さんとはどんなやりとりをしたんですか？

北澤「私が作ったデモは、それこそ軽やかで爽やかな感じだったんです。でもあそこまでパンキッシュでバンドサウンドって感じに仕上げてくれた理由としては──去年の秋にやった“Be ORANGE”ツアーの名古屋公演と東京公演に江口さんが観にきてくれて。その時に、『自分が編曲した『センチメートル』だけ浮いてた気がする。『センチメートル』を作った当初は、the peggiesってもっとポップな曲もやるんだと思って結構ポップにしたけど、ライブを観ると3人で出してる音をもっと重視してアレンジしてもいいのかも』っていうようなことをおっしゃっていて。私は『浮いてないですよ！』って答えたんですけど、『ハイライト・ハイライト』が無骨な感じのアレンジになったのは、そのツアーを観てもらったのが大きかったのかもしれないです。このアレンジが送られてきた時は、自分では全くイメージしてなかった方向性だったので、逆に面白くてこの方向で進めました」

──カップリングには昨年行われたスタジオ配信ライブ「the peggiesの！SOUND BASE vol.3」のライブ音源が収められています。改めてどんなライブだったと思いますか？

北澤「the peggiesにはありがたいことに海外のファンの方たちがたくさんいてくれて。vol.1の時は日本のフォーマットで映像配信したので、海外の方が観れなかったんです。それで次回からYouTube配信にしたんですけど、世界中の人に観られていると思うとありがたいし楽しみな反面、どうしても緊張しちゃって(笑)。新曲をリリースするタイミングのライブでもあったので、新曲を初めて演奏する緊張もあって、二重に緊張しました。でも、普段のライブだとお客さんの方を見て歌っていて、隣を見るとふたりのメンバーがいるっていう構図なんですけど、このライブは3人向かい合って演奏できたので安心感がありました。音には、普通のライブ音源とはまた違うヒリヒリした緊張感が出てるんじゃないかと思います」

──有観客のライブと無観客での配信ライブとの違いをどう捉えていますか？

北澤「有観客のライブは、お客さんと一緒にみんなで作っていくっていう感覚がすごい強いんです。今はまだお客さんは声は出せないけど、みんなの顔を見ていると私の歌い方も変わって、自然と『ここは特に今届けたいから力強く歌おう』とか思ったりする。意識せずともいろんなことをみんなから受け取って、私たちも返す、みたいなやりとりをしてるんだと思うんです。だからどう転ぶかわからない生のセッションのような緊張感があります。無観客ライブは、楽曲の持っているパワーをみんなが楽しみにしている形で忠実に届けなきゃっていうまた別の緊張感がありますね」

──結成10周年、デビュー5周年を迎えましたが、ライブの向き合い方はどう変化していきましたか？

北澤「かなり変わりましたね。最初はライブが好きじゃなかったんです。レコーディングが楽しくて活き活きしてて。それって、曲を作るスタート地点が『みんなに届けたい』ってところじゃなかったからだと思ってて。『売れたい！』とは思っていたけど、聴いてくれる人のことを考えるというよりは、自分は今こういうことに苦しんでいて、だからこそそれを音楽で表現するべき人間なんだ！みたいなものを見せたいだけっていうか。だからライブも、みんなのことを見てないのに、『ここにいるよ！』って空（くう）に向かって言ってるだけみたいなところがあった。それに加えて、緊張もするし思うように演奏できないし、自分にすごくイライラしてました。でも、ここ数年でだんだん変わってきたんです。はっきりとしたきっかけは思い当たらないんですけど、自分たちが思うように前進できていないって感じる日々の中で、それでもライブができたりそこに来てくれる方がいることに対して、『私はなんてありがたい状況にいるんだ』って感じ始めて。それまでライブは、私対複数のお客さんっていう風に捉えていたけど、お客さんからしたら自分対the peggiesっていう一対一の世界なんだなって思って。だったら私も、ライブでも楽曲でも一対一の気持ちで届けなきゃいけないし、ちゃんと誰かに寄り添える曲を作りたいし、そのためには曲を書いたりライブをする時だけじゃなく、日頃からそういう心持ちで生きていたいなって。そういう感情が生まれて楽曲制作にも影響が出てくると、だんだんライブで楽曲が完成するみたいな感覚を覚えていったんです。ミュージシャンがよく『楽曲はライブで初めて完成する』って言いますけど、その感覚を実感できる瞬間がたくさん生まれて、自分が感動しちゃってるみたいな(笑)。昔はライブ中、うまくいかないことがあると悲しくなっちゃってたんですけど、みんなと音楽だけじゃなく楽曲に込められた思いまで共有できてるって感じる瞬間がツアーを重ねるごとに増えていって、どんどんライブが好きになりました。そういう変化が起きた最初の頃は、ライブの構成やセトリを自分のワンマンで考えちゃってたところもあって、3人のコミュケーションが不足していて。でもコロナ禍になる前ぐらいのツアーから、3人のコミュニケーションの取り方が変わったんです。元から仲は良いんですけど、音楽活動の中では誰かが発言しづらい状況があったのが、そういう部分がどんどんなくなってきて、コミュニケーションの濃度が変わっていった。4月24日の日比谷野音のライブに向けても、今3人で意見を出し合いながら構成を練っているので、今回のライブでさらにライブが好きになるんだろうなって思ってます」

──野音は「the peggies 10th Anniversary　～十祭～」というライブ名が付いていて、結成10周年のお祭りでもあります。

北澤「the peggiesの強みには、3人それぞれの個性や、3人の関係性があると思っていて。コピーバンドをやっていた頃から数えたら10年よりもっと長い間、3人で音を合わせることの楽しさをずっと感じてきました。その空気感が伝わるといいなって思ってます。私たち自身10周年って言われると、否が応でも過去を振り返らずを得ないところもあって。『こういうことあったよね』って思わざるを得ないっていうか(笑)。その中で改めてお互いに感謝できたらいいなって思うし、ファンの人たちにも『いつもありがとう』っていう気持ちをより込めて演奏できたらいいなって思ってます。あと、野外のフェスはたくさんありますけど、単独ライブを野外でできる会場っていうと限られてくるし、野音は野外ライブの聖地でもある。the peggiesの楽曲には“空”とか“宇宙”っていうキーワードが出てくる歌詞も多いので、ぴったりのシチュエーションなんじゃないかなって。あの景色の中でそういう楽曲を歌えるのが楽しみですね」